再会

ティナリがアビディアの森レンジャーに入隊した日。
幼いころに森で会った少女と再会する。
風に乗って聞こえた笛の音は、どこか切なくこの大自然の中に溶け込むような鳥のさえずりのようでもあった——

 

幼くして勉学の道に進んだティナリは、知識と学問を全身に浴び、教令院卒業後は薦められた教師の道ではなく、より自由な環境で研究ができるレンジャーに入隊した。

明日からのレンジャーとしての生活に向け荷物をまとめていた夜、開いた窓から流れてくる風にふと花の匂いを感じた。
いつだったか、昔この花を摘んで標本にした。あの時はまだ標本づくりを覚えたばかりで森に行っては様々な花や虫を集めては標本を作り、母からもらった虫眼鏡で観察し、自身のノートに事細かくその特徴などを書き込んだ。
それを見たひとりの少女が、「私も捕まえる」と慣れた手つきで虫を捕まえてきた。
青い髪でオレンジの瞳。そして自信たっぷりの笑顔を浮かべ捕ってきた虫をティナリに渡した。

その日から好奇心溢れる幼いティナリの研究に、一人の助手ができた。しかしその助手には手伝っている感覚はなく、大きくてふわふわした耳としっぽを持つ物知りな年の近い少年と一緒に森の中を探検しているだけにすぎなかった。

しかしいつしかティナリの勉学が本格的なものになってゆき、森に出かける頻度が減りはじめる。毎日会っていたあの少女とも、自然と疎遠になっていた。

「彼女は今、どうしているのだろう」

そんな考えが頭に浮かび、ティナリは窓を閉めた。
まさか翌日、当の本人に逢うことになるとは知らずに。

 

—10年ぶりだろうか。年を重ねた彼女は、当時と変わらない青い髪を揺らし大きく開いたオレンジの瞳をこちらに向けている。
しかしあの時のような森を駆けまわる活発な姿を感じさせないほど整った顔立ちに、ティナリは少し困惑した。だが確実に彼女だ。そんな自信もあった。

「…ティナリ?」

彼女の口から自分の名が発せられ、自分と同じく覚えてくれていたことに嬉しくなり、思わずしっぽが大きく揺れた。

初恋と呼ぶにはあまりに未熟で純粋な記憶は、時を経て確信に変わり、蔓のように繁茂していく。